ブランドの体現者に潜むリスク

PRコミュニケーションでは、トップ広報として、よく“企業の顔”としてのトップからのメッセージが大切であるといわれます。これは、企業理念やビジョンを社内外のステークホルダーに理解してもらうためには、トップ自らが情報を発信すべきであるとの考え方に基づいています。そして、強烈な個性を持つトップのケースでは、ときにはブランドの体現者として受け取られ、企業の推進力を増幅させることがあります。しかしながら、そこにはリスクをもはらんでいますことを忘れないことも重要です。

際立つ個性とブランド

アップルファンにはおなじみの通称MacWorld(正式にはMacWorld Conference & Expo)。しかし、来年1月のMacWorldは様変わりしそうです。これまで基調講演を務めるのが定番だったアップル CEOのスティーブ・ジョブス氏が登壇しないことが明らかになったからです。アップルにとって最後になるという2009年のMacWorld、そしてそこに姿を現さないブランドの体現者・・・このことはブランドと企業トップの関係を考えるいい契機になりました。

アップル CEOのスティーブ・ジョブス氏はアップルそのものであり、彼がアップルの製品すべてを統括し、世に送り出していることを多くの人は知っています。だからこそ、彼がCEOに復帰以来、アップルというブランドの価値を高め続けてきました。数々のヒット製品を連発し、新たなビジネスモデルの構築をも実現してきました。いまや、アップルのブランド力に異を唱える人はいないでしょう。

存続と発展のための継承

アップルのブランド力は多分にジョブス氏によるところが大きいのは事実です。一時、ジョブ氏の健康不安説が流れたときも感じたことですが、ジョブス氏のいないMacWorldで、あるいは同氏の引退後、誰がアップルというブランドの体現者となり、そのブランドを引き継ぎ、発展させていくのか----。こうした懸念はぬぐい去ることができません。企業およびブランドの存続と発展には、企業トップとメッセージのスムースな継承が不可欠です。こうした存続のための継承について考えつつ、2009年1月5日、ジョブ氏に代わって基調講演に登場するフィル・シラー上席副社長のプレゼンテーションに期待したいと思います。

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