マーケティングメッセージ =「事実」X「ならでは」X α

外資系IT/ハイテク関連のクライアントのコミュニケーションに関わらせていただいて早や20年近く。半導体メーカーに始まり、米国系のソフトウェア会社やハードウェアメーカーなどなど。基本を学んだTI、PR/ダイレクトレスポンスAD中心だった日本上陸時のデル(93年時点。社名はまだデルコンピュータ、あるいはデル・ファーイースト)、メッセージングとメディアリレーションの面白さを体験できたPCベンチャーのアキア、デイリーベースのコンシューマビジネスのマーコムを体験させてくれたゲートウェイ2000(後にゲートウェイ)など、ハードウェアの業界ではなぜかダイレクトビジネスモデルの会社ばかりでした。(悪い意味ではなく)朝令暮改の日常茶飯事。刺激的な世界です。そんなマーケティング主導のこの世界で最も大切なのは、「事実」X「ならでは」X αのマーケティングメッセージだと考えています。

「事実」と「ならでは」の積み重ね

米国系ソフトウェア会社日本法人の日本人社長。日本法人立ち上げを控えて、コミュニケーション戦略をどうするか、何をすべきかという議論のなかで、さかんに「シナジーが大事だ」と言われていました。そのベースはメッセージングだと。非常にPR的考え方を持つ方でした。会社が目指す方向や市場動向、製品の優位性等を明確にして、統一された自社の優位性を発信しようというのです。
コミュニケーションはメッセージングを中心に、PR、DM、コラテラル、あるいはセールスツールやパートナー向けのセミナーやパーティなど、あらゆるシーンで統一的に使われました。B2Bのビジネスということもあり、限られた予算のなかで広告の効果に疑問があったのかもしれません。
限られた予算で、最大の効果を―これはコミュニケーションに関わる人なら、誰もが考え、ベストな途を求めています。そのために採った手法が、この場合、あくまでもPR的視点でシナジーをつくることでした。その起点は「事実」と「ならでは」。事実を積み重ね、その会社「ならでは」のメッセージにする。「ならでは」あってこそのメッセージです。PR、コミュニケーションに携わる者として、これほどおもしろいことはないと感じています。広告コピーとともに掲載されている会社のロゴを競合のものと差し替えてみて下さい。それでも、何となく成立してしまう広告も多いのではないでしょうか。メッセージがどの会社のものか、わからないケースも多いものです。

ときには事実による「比較」も効果的

「事実」と「ならでは」にさらにコミュニケーション手法としての広告とクリエイティブ手法としての事実による「比較」をプラスしたのが、アキアのときでした。この会社は姿を消してしまいましたが、業界では知られた人、元デル(日本)の社長が設立した会社ということで、日経ビジネスの挑戦するビジネスマンにフォーカスした「挑む」(当時)で紹介されるなど、ローンチ以前から注目を集めていました。
ローンチの記者発表会にはおそらく30名足らずだった記者の方も、新聞や雑誌で紹介されるケースが増えると加速度的に増え、一時は120名を数え、外国人記者クラブの会場は溢れんばかりでした。PC市場が盛り上がっていた時期とはいえ、設立1〜2年の会社の発表会の雰囲気ではありませんでした。
この会社では、PRとマーコム全般を担当していました。重視したのはやはり、「事実」と「ならでは」です。コミュニケーションメッセージも、この新興の会社の、プライスパフォーマンスの高い製品をハイエンドユーザーに提供するというマーケティングコンセプトに沿ったものでした。PRのメッセージからコラテラル、広告コピーに至るまで一貫性を持たせました。広告コピーの主役はスペックと価格でした。つまり、事実である数字ですべてを表現していました。競合製品とのスペック比較も行いました。いわゆる「比較」広告です。ターゲットはスペックを比較することで十分に魅力を感じてくれるに違いないという確信に満ちていました。
この新興企業だからこそできたことかもしれません。そして、あの会社だったら、何かやりそうだ、とメディアやユーザーの方も感じていてくれたと思います。そこにはエモーショナルマーケティングの匂いもしていたと信じています。10年近くも前のことですが、いまでも基本は一緒ではないかと考えています。

外資系IT/ハイテクの業界では、多くの場合、PR=マーケティングPRという位置づけです。企業規模にもよりますが、PRとマーコムを同じ方が、あるいは同じ部署で担当されているケースがほとんどです。そこで求められるのは、最終的にはリードジェネレーションだったりします。ただ、基盤づくりの段階では、その前に認知度を向上させるという命題があります。そんなとき、ターゲットオーディエンスの期待感を醸成しうる「事実」X「ならでは」X αによるマーケティングメッセージを検討してみてはいかがでしょうか。

(以上)