ガラパゴス現象とコミュニケーションの海

[2008/01 記]

特殊な生態系が今も残る太平洋上の島ガラパゴス諸島。それになぞらえて、最近、携帯電話市場は「ガラパゴス現象」だという声を良く耳にします。このこと自体は、今さらという感が強いのですが、今回はマーケティングとコミュニケーションにおいてどうすれば「ガラパゴス現象」に陥らずに進化できるのか考えてみたいと思います。

進化とキャズムとコミュニケーション

1ヶ月ほど前、IT業界では知られたアナリストの方と面談させて頂き機会がありました(正確に言うと、私だけではなく、クライアントの社長、ご担当ディレクターの方も一緒)。米国MITで修士課程、世界最大のIT企業、米国系IT市場調査会社を経たK氏がおっしゃることでなるほどと思ったのは、
・ 今日のハイエンドは明日のメインストリーム

・ ハイエンドとハイボリュームは共存しづらい

・ テクノロジーの買収は容易だが、組織の買収は難しい

――ということ。
ここで見えてくるのは、進化の重要性です。技術や顧客、社会環境の変化を共有した上で一歩、二歩と歩みを踏み出す――これが、IT業界の進化なのでしょう。

良くも悪くも独自性が強過ぎる革新的、あるいは革命的なケースは「キャズム」を生むことになり、メインストリームへと進むことが難しくなってくるのではないかと考えます。「キャズム」の谷間の先にあるのはガラパゴス諸島かもしれません。コミュニケーションに携わるものとしては、キャズムを生むことなく、連続性の高いストーリー展開を常に考えている訳ですが。

共有のコミュニケーション

コミュニケーションの側面から、顧客ニーズの変化やビジネスモデルの進化、テクノロジーの進化、そして目指すべき方向性の具現化といったことを共有するためにはどのような方法が適切なのでしょうか。

先月、米国オーランドで開催されたIT関連のクライアントの年次イベントはいい例かも知れません。世界30カ国以上から1,500人以上の参加者を集めて、3日間にわたって開催されました。通常、IT企業主催のコンファレンスというと、セッションのほとんどは自社の製品やソリューションに関するもので、特に日本では、補足的に外部のスピーカーによるキーノートがあるというケースがほとんどですが、この企業は違います。

ひとつのテーマ(今年のテーマは “The User Revolution”)のもとに、関連分野のテクノロジー・リーダーやユーザー企業のエグゼクティブ、各業界の専門家たちがそれぞれのテーマについてのキーノートスピーチを行い、参加者とアイデアを共有することに主軸が置かれています。キーノートのほとんどは、外部の著名な学者やコンサルタント、ユーザーによって行われました。しかも、業界の動向に少なからず影響を与えるビッグネームばかりです。

そこには、製品やソリューションのベネフィットを協調する姿勢はまったくありません。あるのは、今年のテーマの視点からすると、現状はどうなのか、なぜなのか、今後はどうなるのか――という一貫した方向性と情報共有の場です。こうした情報共有こそが、コミュニケーションの海をガラパゴス諸島とは正反対に向かわせるのではないでしょうか。

適応のために進化するメディア

最後に、先にご紹介した米国オーランドでのキーノートのひとつ、“The Original Six Trends And The Impact of User Revolution on Your Business”と題したSafa Rashtchy氏のスライドから。スライドのタイトルは、「The Old Media’s Changing Perception of Google」。2年足らずのうちに、ここまで変わるのかと、再認識させられたのでご紹介します。

ちょうど3年前、AFP通信は:
“Agence France-Presse has sued Google Inc. for copyright infringement, alleging that the Internet search engine included AFP headlines news summaries and photographs published without permission. In a suit filed in a Washington court, AFP sought damages and interest of at least $17.5 million (€13.1 million) and an interdiction on the publication of its text and photos without prior agreement.”

  • Reuters, March 18, 2005

そして1年10ヶ月後、The Timesは:
The Times of London owned by New York-based News Corp. is training journalists to write in a way that makes their articles more likely to appear among Google's unpaid search results. "You make sure key phrases and topic words are embedded in the top paragraph and headlines," says Zach Leonard, the paper's digital-media publisher” ... “Newspapers are buying search words on Google Inc. so that links to their Web sites pop up first when people type in a search. The Daily Telegraph for example bought the phrase "North Korea Nuclear Test" after the country detonated a nuclear device last October.”


The Timesでさえも、社会環境の変化に適応するために進化しなければならなかった、ということですね。

(以上)