結果と期待値

取材を受ける側は、当然ながらその結果に期待します。直接的な期待も、長期的な視点からの間接的な期待もあります。結果として望むのは、正確、かつポジティブなコンテキスト。一方、メディアには、大げさに言えば、表現の自由があります。どう書くか、あるいは書かないか、ポジティブかネガティブか、すべてが記者の視点です。つまり、せっかく取材に費やした時間が自らをマイナスに導くかもしれません。結果と期待値を同レベルでつなぐにはどうすべきでしょうか。

否定された「期待権

取材を受ける側の期待について考えたきっかけは、ある報道でした。少し前になりますが、2008年6月、取材される側の「期待権」についての裁判が結審しました。取材に協力した側が、事前説明と異なる内容を放映したとしてTV局などに損害賠償などを求めた訴訟です。最高裁は「取材を受けた側の期待や信頼は原則として法的な保護対象にはならない」という判断を下しました。
取材のテーマも、内容も、取材された側の立場も非常に重いものでしたので、軽率なことは言えませんが、少なくとも広報に携わる者として、取材の結果に対する期待値を上げるためには何をどうすべきかと考える契機になりました。

企業広報における「期待値」

メディアの取材と期待値について考えてみたいと思います。企業広報においては、期待した結果と実際の結果が大きく違ったとしても、訴訟まで発展することはないでしょう。しかし、広報担当者は社内で針のむしろ(?)かもしれません。
せっかく、CEOの来日の機会に個別取材を設定して1時間も費やしたのに、いつになっても記事にならない。日本法人トップからも、本社からも、プレッシャーが続く―そんな経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。エージェンシーの担当者として、インタビューに同席していても、これは記事にはならない、なりにくい、といったことが稀(まれ)にですが、あります。なぜでしょうか。

結果は準備から

期待値に満たない結果―その多くの理由は、準備不足ではないでしょうか。
取材テーマに対するポイントが不明瞭、トーキングポイントが絞られていない、主張を裏付けるものがない、新規性に乏しい、競合との差別化が明確でない・・・書かれなかった記事を思い起こせば、心当たりはいくつかあるのではないでしょうか。
こうしたことがないように広報担当者とともに準備するのがエージェンシーの大きな役割です。クライアントのExpectation Managementも必要でしょう。アレンジの際も明確なポイントは必要なのですが、若干不明瞭であったとしても、来日するCEOへのインタビューとなればアレンジできてしまったりします。メディアも「何かきっとあるはず」と期待するからです。
逆に言えば、この「何かあるはず」のものを用意できればいいのです。
乱暴な言い方をすると、書くか書かないかは記者の自由ですし、結果を期待するのも企業とエージェンシーの自由です。でも、期待する前に「何か」とコンテキストをしっかり用意することによって、メディアにとっての書かない理由はなくなります。むしろ、筆も進むのではないでしょうか。

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